精度を新たな高みへ―レニショー光学式エンコーダを搭載したエアベアリングステージ
背景
半導体、ソーラーパネル、精密加工といったハイエンド産業でエアベアリングが広く活用されている。
潤滑油の代わりに空気などを使い、エアクッションで面を接触せずに支えることで、モーションステージ内でスライダが浮いて動くことを可能にしている。エアベアリングを搭載したステージはリニアモータや光学式エンコーダと組み合わせることで、極めて優れたパフォーマンスを発揮する。
この分野でイノベーションの先頭を走るのが TOYO Nano System 社 (以下 TOYO 社) だ。同一平面設計 (特許取得) や位置フィードバックシステムにレニショーの高精度光学式エンコーダを採用したモーションステージを開発、展開している。コストパフォーマンスに優れた、ミクロンレベルやナノレベルのモーションステージを業界に供給している先端企業である。
エアベアリングの原理とメリット
エアベアリングは一般的に、静圧タイプと動圧タイプに分類される。そのうち、モーションステージでよく使用されるのが静圧タイプである。原理としては、圧縮空気 (または窒素、アルゴン、炭酸ガスなど) をベースに取付けられたガイドレールとスライダの底面とのギャップに外部からスロットルを通じて供給する。
TOYO 社製ベアリングステージ
静圧の空気層がギャップに形成され、これによりガイドレールの上にスライダが浮く。空気層の厚さ (浮上高さ) は、ステージの設計とガイドレールとスライダの表面の仕上げ精度に依存する (通常は 5~10µm)。
課題
TOYO 社製エアベアリングモーションステージにおけるレニショー光学式エンコーダの使用例
エアベアリングにおける重要なコンポーネントがスロットルである。負荷が増すと空気層が圧迫され、剛性に影響が出る。空気層の厚さとベアリングの剛性を維持するために、ギャップに供給される空気の流量と流速を負荷に応じて調整する役割を担うのがスロットルである。
エアベアリングの負荷容量と動作特性は、搭載しているスロットルと密接に関係しており、メーカー各社が最適なパフォーマンスを確保すべく、独自のスロットル技術の開発に取り組んでいる。
TOYO 社が設計したスロットルはエアベアリングステージ内の構造部分に埋め込まれている。そのため構造がシンプルで組立てが簡単であり、スロットルを外側に持つ典型的なエアベアリングステージに比べて、高い剛性と積載能力を備えている (TOYO 社 Vice President の Deng Gui Dun 氏の話)。
TOYO 社製エアベアリングステージの繰り返し精度は 0.3µm (ストローク 300mm あたり) であり、6 自由度で高い精度を発揮する。また設計上の特徴として挙げられるのが同一平面構造である。参照平面が共通しているため、水平面と垂直面に X 軸と Y 軸を重ねることで生じる誤差の蓄積を回避できている。
最大加速度 10G に達するモデルもあり、これは半導体、フラットパネルディスプレイ、PCB、レーザー露光、自動光学検査機といったハイエンドな用途に十分な仕様である (自動光学検査での使用が大半を占める)。自動光学検査では、検査対象を走査して撮像するため、安定した速度制御が不可欠である。
解決策
エアベアリングのおかげで摩擦がほぼゼロに抑えられているため、ステージのずれはごくわずかしか生じない。エアベアリング内の空気層によって、ステージベースやスライダなどの表面誤差が平均化されるため、平面度や真直度が良化し、速度も安定する。
一方で、高精度な位置フィードバックを依然として支えているのは光学式エンコーダである。例えば同社の高性能エアベアリングガントリステージでは、RESOLUTE™ 光学式アブソリュートエンコーダと RELA ZeroMet™ スケールが採用されている。
同ステージは、繰り返し精度 1µm 以上、交差軸のヨー誤差 3arc 秒未満、最高動作速度 1m/s、X 軸ストローク 350mm、Y 軸ストローク 1200mm といった仕様を実現している。
RESOLUTE エンコーダの仕様としては、分解能で 50nm、コントローラとの通信は BiSS C プロトコルである。このステージは速度リップルが低いため、PCB プリントや DI 露光機といった高速安定動作が求められる場面に適している。
Deng 氏は以下のように述べる。「レニショーさんの光学式エンコーダのラインナップは非常に豊富です。アブソリュートエンコーダの RESOLUTE や、インクリメンタルエンコーダの VIONiC™、QUANTiC™、ATOM™ などがあり、当社のステージにも採用しています。
モーションステージに求められる仕様は業界によって異なりますが、レニショーさんはそのほとんどに対応できる種類の製品を取りそろえています。レニショーさんの光学式エンコーダを採用して以来、お客様からエンコーダの不具合についての声を聞いていません。信頼度は高いですね」
エアベアリング式ガントリステージのパフォーマンスにおける光学式エンコーダの役割
エアベアリングには、防塵性、静音、非接触といった多数のメリットがあり、高い加速度が可能である。
だが、ハイパフォーマンスなモーションプラットフォームを構築するには、高精度な光学式エンコーダが必要である。光学式エンコーダを選定する際に考慮しなければならない要素としては、温度や周期誤差、ジッタなどの環境要件や測定要件が挙げられる。
温度 - 温度が変化すると、スケールが熱伸縮を起こす。熱伸縮は精度に影響し、特にミクロンレベルやナノレベルでの位置決め精度に大きな影響を及ぼす。そのためエアベアリングステージには、花こう岩や熱膨張率がほぼゼロの Invar®など、温度変化の影響を受けにくい材料のスケールが使用されることがほとんどである。
周期誤差 - 軸の動作のなめらかさに直結する要素が周期誤差である。周期誤差が低いと速度リップルも低下する。例えば自動光学検査や印刷では低周期誤差が求められる。レニショーの RESOLUTE と VIONiC であれば、周期誤差はそれぞれ 30nm 以下と 10nm 以下であり、ほとんどの要件に対応できる。
ジッタ - エンコーダは、内部のエレクトロニクスに起因する不確かさを内在している。内在していないエンコーダはない。この不確かさは静止時のエンコーダから出力される位置ノイズとして現れ、その尺度がジッタである。ジッタは、定位置に留まろうとするステージの安定性に影響する。VIONiC の場合、ジッタはわずか 1.6nm RMS であり、位置安定性が極めて重要な場面に最適な仕様となっている。
レニショーとのコラボレーション
TOYO 社のエアベアリングステージは主にハイエンド市場をターゲットにしており、台湾、中国、韓国、日本、アメリカ合衆国、東南アジアなどが主な販売地域である。
他にも電動シリンダ、リニアモータモジュール、サーボドライバなどの製品を展開しており、リニアモータ製品の 95% 以上に QUANTiC を採用している (分解能 1µm、0.1µm、0.5µm、ストローク長 80mm~8m、推力 30N~1000N)。
TOYO 社では抜取り検査ではなく全数検査で品質管理を行っている。モーションステージは出荷前にレニショーの XL-80 レーザー干渉計でテストと校正を行い、顧客向けにレポートを作成している。大型モデルについては、顧客現場への納品後にも XL-80 にて追加校正を行い、精度の確保に注力している。
TOYO 社は光学式エンコーダとレーザー干渉計を採用する以前から、レニショーの三次元測定機用プローブを使用していた。製品の高い性能と品質、取り付けやすさ、充実したサポート体制などを評価され、採用されていた。
結果
「レニショーさんのレーザー干渉計は業界で高く評価されているので、テストレポートを提出することで、お客様には安心していただけます。ステージの量産に対応するために、XL-80 は 5 台購入し、現在毎日使用しています。また XM-60 マルチアクシスキャリブレータのデモを見させていただきました。特に 6 自由度すべてで校正する必要のある高精度モーションステージのテストの大幅な効率化が図れそうです。今後は、標準エアベアリングモジュールやエアベアリングを使ったダイレクトドライブロータリモータといった新製品の開発にリソースを投入し、マイクロ LED ディスプレイなどの新テクノロジーの開発ニーズを捉えていきたいと考えています」(Deng 氏)
リニア XY エアベアリングステージ