絶滅種の再現 - アンモナイト化石のラマンイメージング
2020 年 7 月 29 日
先史の時代の生活と同じように想像力をかき立てるものが、この世界にはほとんどありません。今では世界遺産となったジュラ紀の化石が眠るイングランド南部のライムレジスで休暇を過ごしていた幼い頃、化石探しは単なる暇つぶしではなく、刺激的で本当に魅惑的な体験でした。別世界とつながる行為だったからです。私たちが今いるまさにこの場所に存在していた現実世界に、把握しきれないほどの歴史があるのです。
ラマンイメージングが、地質断面内の無機物や鉱物の組成を特定するための技術として、古くから確立されていることは言うまでもなく、材料の多形を区別するための特異性を示すこの技術は、長い年月を経て高速化し、大きなサンプルのコンテキスト解析と表現性を改善してきました。そして、フォーカストラッキング機能 (レニショーの LiveTrack™ など) が追加されたことによって複雑な表面形状も正確に解析できるようになり、今では、鉱物学と古生物学のサンプルを、切り分けたり磨いたりせずに解析できるようになり、土着物質の特性についての詳細把握に役立っています。
アンモナイトの解析
ここでは、LiveTrack による StreamLineTM ラマンイメージングを用いて、ライムレジス (ブラックヴェン) で採取されたアンモナイト化石を解析します。アンモナイトは、絶滅した軟体動物です。殻を持つオウムガイに形が似ていますが、実はイカやタコなどの鞘形亜綱 (しょうけいあこう) に近い存在です。その特徴的な形状から、「蛇石」という愛称が付いています。膨大な数の岩や小石に紛れていても、化石ハンターの肥えた目にはすぐに分かります。
私は、サンプルから 100 万本以上のスペクトルを集めることができました。StreamLine ラマンデータと、WiRE ソフトウェアマスキングを併用して生成したケミカルイメージから、さまざまな物質が同定されました。これらの物質から、化石およびその周辺物質の組成物が、硫化鉄と炭酸カルシウムであることがわかります。この画像は、存在する各種物質の詳細に加え、結晶性や応力の微妙な変化も明らかにしています。この変化を、3D 地形画像のコンテキストと照合すると、硫化鉄の結晶化度と応力特性が、地形的特徴 (セプタ) と特異的に相関することがわかります。硫化鉄の低結晶化度は、セプタのピークと相関し、3.5cm-1 (341cm-1 帯域) の範囲で変動します。硫化鉄の圧縮応力は、セプタのピーク (最大セプタ曲率の領域) の端に相関し、339.11cm-1 から 343.10cm-1 の範囲で変動します。
アンモナイトの殻には、縫合模様があるのが典型的です。その模様は 3 種類に大別され、生きていた時代と相関します。ここでは、これらの模様が、炭酸カルシウムの存在と相関して蛍光が強まる様子をお見せします。これにより、白色光画像に対するコントラストを高めることができます。
この詳細な化学的情報および特性情報は、サンプルを前処理せずに実世界のサンプルを理解するうえでのラマンデータの価値を表しています。レニショーの LiveTrack テクノロジーを用いて、これを表面形状と照合すると、物質を見事に再現できるのです。
今度ビーチに出かけたときには、足元に隠れているかもしれない化石や、レニショーのラマン装置を使用して実行できる詳しい調査に思いを馳せてみてください。
アンモナイトの 3D ラマンイメージ
執筆者について
Tim Smith, Applications Manager
Tim は、各種ラマン研究機器の使用経験が 20 年を超えており、ほとんどの応用分野で、システムに関する豊富な知識と実使用経験がありますが、特にラマンイメージングと製薬分野に精通しています。
2007 年には、StreamLine イメージングを高解像度化学イメージングに大規模に応用するプロジェクトを主導しました。最近では、材料のライブフォーカストラッキングと、化学的および形態学的な相関イメージングに力を入れています。