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ラマン分光によるウイスキーの分類

2021 年 2 月 11 日

ある人にとっては嗜好品であり、またある人にとっては、口の中でさまざまな風味を楽しめる至高の一品である、ウイスキー。ウイスキーの歴史は古く、その綴りでさえ議論の対象となるほど、国ごとに異なります。ただし、ウイスキーの唯一無二性には議論の余地がなく、樽内熟成は、香りと味に大きく関わる要素のひとつです。

ウイスキーの価値は、他のビンテージ製品と同じく、時間と希少性に比例して増し、中には 50,000 ポンドを超えるウイスキー (年代の古いシングルモルトが一般的) もあります。これだけの価値があることに加え、その中身が、密閉されたボトルの中に隠れているため、偽造品が後を絶ちません。希少ウイスキーの指標を発表している『レアウイスキー101』によると、「2019 年の希少ウイスキー市場では、4100 万ポンド相当の偽物が出回っている」と推定されています」(1)。

ウイスキーは規模の大きな産業です。科学的根拠に基づいて製品の真贋を客観的に証明できる方法を使って、偽造品や希釈/混合された製品を確実に識別できることは大きな意味を持ちます。

本稿では、inVia ラマンマイクロスコープを用いて、各種ウイスキーを未開栓のボトルから分析し、その真贋を証明してきた方法を紹介します。

ラマン分光によるウイスキーの分析

ラマン分光は、混合物に含まれる各種化学物質に関する詳しい情報を、非接触的かつ非破壊的に提供します。そのため、生成された化学的指紋、すなわちスペクトルには、特定の組み合わせに対して極めて高い特異性があります。未開栓ボトルからウイスキーのスペクトルを収集し、他の既知の品種と照合することにより、わずか 10 秒でその真贋を正確に確認できます。

inVia ラマンマイクロスコープ (90°アダプタ付きマイクロレンズを搭載) を使用し、未開栓ボトルのガラスを通じて 12 種類の有名ウイスキー銘柄からスペクトルを収集しました。これらのボトルは、ガラスの色もさまざまでしたが、正真正銘の各ウイスキー銘柄から、複数のラマンスペクトルが収集されました。

inVia ラマンシステムは、専用の分類ソフトウェアに対応しています。このソフトウェアを使って、既知の品種のデータ (ゴールドスタンダード) を、同等と称されている品種のデータと照合できます。分類モデルの生成には、それぞれのゴールドスタンダードウイスキーのスペクトルを使用しました。

ウイスキーのラマンスペクトル

このモデルは、主成分分析と線形判別分析 (PCA-LDA) を用い、各ウイスキー銘柄に固有のスペクトル特徴に基づいてスペクトルをグループ化します。その結果が、それぞれの銘柄の客観的な違いを示す点分布を表した図です。

ラマン分光によって判明したウイスキー銘柄
この分類モデルは、それぞれのウイスキーがスペクトル的にどのように区別できるか (色付けされた点の群) を示しており、各ブランドの複数の点は、ブランド内でのスペクトルのばらつきを表しています。この方法によれば、スペクトルの違いがごくわずかであっても、はっきりした特異性が得られます。さまざま生体組織を医療目的でさまざまサブタイプに分類する場合にも、同様の手法が用いられます。この手法により、希釈または他品種との混合によって生じたわずかな変化も明らかにできるのです。現在は、生体組織と生体液の分類による病状診断を目指し、ラマン分光を用いた同様の手法の開発が、さらに複雑な生体化学システムで進められています。

次に、1 本のウイスキーを用意し、レニショーの Data Classifier を使用して銘柄を判定しました。10 秒ほどで 1 本のスペクトルが収集され、そのウイスキーはラガヴーリンに分類されましたが、このウイスキーは実はアードベッグのボトルに入っていました。アードベッグのボトルが、ラガヴーリンとは異なる色 (緑) のガラスで作られていたにもかかわらず、ウイスキーは正確に識別されたのです。この事実から、ラマン分光と PCA-LDA を併用した手法が実に高性能であり、ボトルの中身を迅速かつ正確に識別できるということがわかるでしょう。

ラマン分光によるウイスキーの分類
いかがでしたか。希少でユニークなウイスキーの大手オークションハウスであるドイツの whiskyauction.com で、売買されるウイスキーの真贋を証明するのに inVia ラマンマイクロスコープが 4 年にわたって使用されてきた理由をご理解いただけたかと思います。

今度、お気に入りのウイスキーを口にしてその魅力を存分に味わうときには是非、詳しい化学成分や、真贋を確認するための最新テクノロジーの利用方法を考えてみてください。

この装置の詳細については、他の記事や www.renishaw.jp/ramanapplications をご覧ください。

執筆者について

Tim Smith, Applications Manager

ティム・スミスの顔写真

Tim は、各種ラマン研究機器の使用経験が 20 年を超えており、ほとんどの応用分野で、システムに関する豊富な知識と実使用経験がありますが、特にラマンイメージングと製薬分野に精通しています。

2007 年には、StreamLine イメージングを高解像度化学イメージングに大規模に応用するプロジェクトを主導しました。最近では、材料のライブフォーカストラッキングと、化学的および形態学的な相関イメージングに力を入れています。

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謝辞

データの提供と分析に大きく貢献していただいた Marc Richter (Renishaw GmbH) 氏にお礼申し上げます。

参考資料

  1. 偽ウイスキーをガラス越しに突き止める方法