Dynisma 社の位置制御を支える RLS のエンコーダとレニショーによるサポート
背景
Dynisma 社はモータスポーツや自動車セクターの顧客に向けて、新たにモーションジェネレータを開発した。それが DMG-1 である。動きを超正確に再現し、極めて高い没入感を実現する。また、DMG-1 は自動車開発時の動的テストや NVH (騒音、振動、ハーシュネス) にも使用できるのが特徴である。
Dynisma 社は、マクラーレンやフェラーリの F1 部門でシミュレータチームを率いていた Ash Warne 氏によって設立された会社である。トップの F1 ドライバや開発中乗用車の評価を行う自動車エンジニアに向けた忠実度と応答性が高いドライビングシミュレータを開発し、提供することを目標として掲げている。
Dynisma 社の Chief Engineer 兼 CEO を務める Ash Warne 氏は以下のように DMG-1 について説明している。
「DMG-1 モーションジェネレータは車のテストやモータスポーツで使用されています。これまでにないほど忠実度が高く、リアルなテストを行えるテクノロジーで、高帯域と超高応答性が他製品にはない優れた特徴です。入力できる情報が増え、今までにないほどのリアルさと没入感を実現しています」
DMG-1 のモーションシステムは、忠実度が高く高帯域の動作に関わる高周波プラットフォーム (HFP) と、大きな動作に関わる低周波プラットフォーム (LFP) のふたつから成る。そしてモーションシステムとビジュアルシステムが同期されており、そのビジュアルシステムからドライバが視覚情報を得る。
Dynisma 社で DMG-1 Engineering Lead を務める Joshua Bell 氏は以下のように述べる。
「DMG-1 にはビジュアルシステムが統合されています。ドライバは深い没入感が得られ、運転時には、シミュレータからの動きとビジュアルシステムからの視覚情報の両方を知覚します。このふたつのシステムが連動しているのです」
Ash Warne 氏 (Dynisma 社の Chief Engineer 兼 CEO)
課題
また、極めて重要な要素として挙げられるのが応答性である。ドライバが瞬間的にレーシングカーを操るモータスポーツでは、特に重要視される。応答性とは、動きの指令をモーションシミュレータに送信してから、指令した動きが再現されるまでの時間を指す。オーバーステアが起きた場合、ドライバはモーションシステムのフィードバックに対して反応して対処する以外にないため、フィードバックの速さ、応答性が重要となる。応答性が良ければ、シミュレーションカーの操作の精度が高まる。
例えばシミュレータの応答性が悪い場合には、車両を制御下におくためだけに、アンダーステアを余分にモデルにプログラムしておく必要がある。高い応答性により、リアルなドライビング体験の正確なシミュレーションが可能となる。
車両の設計時、乗り心地やハンドリングといった動的システムのパフォーマンスに対する車両の挙動を再現するうえで、正確な車両モデル全体のシミュレーションが欠かせない。
「DMG-1 からの刺激に対してドライバが迅速に反応する必要がある場合に、当社の実現している高応答性が大きな意味を持ちます。DMG-1 からは、お客様が評価したい内容に応じてさまざまな情報を得ることができ、例えば車両の乗り心地のシミュレーションであれば、道路の凹凸、キャッツアイ、穴、スピード防止帯などを通過する際の上下動を、車内のドライバと乗員に正確に再現します」(Ash Warne 氏)
「応答性の良さというのが、当社製品の強いセールスポイントです。システム側からのフィードバックが遅れると、ドライバの反応が結果として遅れることになります。反応して、フィードバックを受けるまでの全体的な遅延が重要だと考えます」(Joshua Bell 氏)
Joshua Bell 氏 (Dynisma 社の DMG-1 Engineering Lead)
解決策
大きな動作を担う側である LFP を駆動するベルト駆動アクチュエータの正確な位置制御を行うために、Dynisma 社は、レニショーの関連会社である RLS が製造および提供する LA11 磁気式リニアアブソリュートエンコーダを採用した。
LFP には、三角形に配置された 3 個のベルト駆動アクチュエータ (グラウンドレール) が搭載されており、このアクチュエータが 3 本のパッシブレールを介して HFP のトライベースとつながっている。3 本のグラウンドレールによって、3 自由度 (縦方向、横方向、ヨー) の動きが可能になっている。一方、HFP にはアクチュエータが 6 個搭載されており、細かな動きでも忠実度の高い 6 自由度の動きが可能になっている。
LA11 は応答がよく、復帰時間が短くなるようなエレクトロニクス設計が特徴である。また、相対位置と絶対位置の両方を出力可能な点も特徴である。
Bell 氏は以下のように説明する。「LA11 は LFP に組み込んでいます。デモシステムでは 3 本のグラウンドレールに 6 個、お客様のシステムでは 9 個取り付けています。エンコーダからは Beckhoff 安全装置に出力されており、システムの位置と速度をモニタリングする当社の安全プログラムに送信されています。つまり、安全範囲を超えたシステムを安全にシャットダウンすることができるのです。
DMG-1 で主に必要とした条件は、1 個のリードヘッドから絶対位置情報と相対位置情報の両方をフィードバックできることでした。軸の位置と速度の両方を安全システムに直接フィードバックする必要がどうしてもあったのです。絶対位置しか出力できないエンコーダでは、相対位置用に別のエンコーダを取り付けねばならず、パッケージサイズが大型化してしまいます。その点、LA11 は 1 組のリードヘッドとスケールで両方の情報を出力できて省スペースになるので、理想的でした」
DMG-1 モーションジェネレータ
RLS LA11 磁気式リニアアブソリュートエンコーダ
3 個のベルト駆動アクチュエータ (グラウンドレール) を搭載する LFP
結果
「我々は当初、レニショーさんにアプローチしていたのですが、そこでレニショーさんから RLS さんの LA11 エンコーダをご提案いただいたのです。それを受け精査したところ、DMG-1 にぴったりだと判断しました。次の半年~1 年の間に 3 台の DMG-1 の納入を予定しています。それ以降もオーダーが控えており、レニショーさんと RLS さんとは今後も関係を継続していきたいと考えています」(Joshua Bell 氏)
レニショーと RLS は、テクニカルサポートやエンジニアリングサポートに裏打ちされた多種多様な製品を提供し、Dynisma 社とパートナー関係を長年にわたり築いてきた。
Ash Warne 氏は続ける。「当社は、ヨーロッパや北米など世界各地のモータスポーツや自動車業界のお客様を相手しています。DMG-1 含め、当社の新製品は強い引合いをすでにいただいています。レニショーさんと RLS さんの製品は当社が求める条件にぴったりで、強力な関係を築けています。また、製品の選定やサポートをしていただいています。当社は常に製品ラインナップの拡充に力を入れており、今後も技術開発を継続していくつもりです。今後の製品でもレニショーさんと RLS さんを頼りにしています」