RESOLUTE™ アブソリュートエンコーダ、多軸ロータリテーブルの飛躍的な進化に貢献
「5 軸加工」―一般に、独立した 5 軸を同時に動かしてワークを加工する、CNC 機械の能力を指す言葉である。近代産業を語るうえで工作機械は欠かせない。中でも複雑な精密加工が可能で、自由度の高い製品設計に応えられる 5 軸マシニングセンターの需要が近年では増している。
ロータリテーブルと工作機械
スマートフォンのケースやタブレット PC などの日常アイテムだけでなく、家電用の金属ケースの製造にも高度な工作機械が使われている。複数軸機の技術が成熟するに合わせ、ロータリテーブルの高精度化や高速化の需要も増している。台湾の工業技術研究院は、高度な 2 軸ロータリテーブルを開発することで、このトレンドに対応している。このロータリテーブルに組み込まれているのが、Panasonic シリアル通信プロトコルで Panasonic ドライバ/コントローラと直接通信可能な RESOLUTE である。
ロータリテーブルは、穴あけ、ミーリング、旋削といった複雑な機械加工で特にカギとなる、工作機械の構成要素のひとつである。工作機械メーカー各社が、顧客の要望に応えようと多種多様な製品を展開しているが、加工能力の拡張を実現するひとつが、CNC マシニングセンターの従来の 3 軸に第 4 軸または第 5 軸として追加するロータリテーブルである。3 軸のマシニングセンターではワークが動かないため、加工のたびにワークを固定しなおす必要がある。一方で、5 軸機ならワークを固定しなおさなくてもワークの 5 面 (上面、正面、背面、左右面) を効率的に加工できる。トータルのサイクルタイムとセットアップタイムを大幅に削減できる。さらに、セットアップ時間の短縮、省人化の促進、加工精度の確保のためにオンマシンプローブ計測が用いられる場合もある。
本プロジェクトで工業技術研究院のシニアエンジニアを務めた Kuan-wen Chen 氏はきっかけについて以下のように述べる。「市場にあるロータリテーブルは、1 軸か 2 軸のどちらかです。構成部品としては、ワーク用テーブル、ハウジング、メインベアリング、サーボモータ、駆動部品、エンコーダ、ブレーキがあります。コスト削減のため、サーボモータとエンコーダ以外は、内製または現地調達しています。数年の開発期間を経て、現在の我々の設計の製造コストは、競合ブランドの半分以下に収まっています。究極的には、地元メーカーにも技術やソリューションを展開し、地元メーカーによるコストパフォーマンスの高いロータリテーブルの開発を後押ししたいと考えています」
工業技術研究院のロータリテーブルは、360°の回転軸と 170°のチルト軸が特徴である。どちらも、高トルク、高剛性、低摩耗、機械的なバックラッシュゼロを誇るダイレクトドライブロータリモータで駆動する。どちらの軸にも Panasonic プロトコル対応で工業技術研究院製コントローラと通信可能な、分解能 20bit の RESOLUTE リードヘッドが搭載されている (組合せは RESA リング)。システムとしての位置決め精度は±10arc 秒、繰り返し精度は±5arc 秒、最高角度分解能は 0.001° (3.6arc 秒) を誇る。ロータリテーブル (Ø250mm) としての出力トルクは回転軸周りで 170Nm~300Nm、チルト軸周りで 245Nm~440Nm である。
工業技術研究院 (台湾)
工業技術研究院による RESOLUTE の採用
工業技術研究院としては、サーボ機構の一体部品として、モータハウジング内に収まるコンパクトさをリードヘッドとスケールに求めていた。Chen 氏は以下のように続ける。「エンコーダの選定の際、サイズが重要な条件だったので、必然的にオープンタイプのエンコーダが選択肢になりました。クローズドタイプは外側にハウジングがあるために大きくなりがちで、ダイレクトドライブロータリ機構に組み込むには適さないことがほとんどです。加工環境は切り粉やオイル、クーラントで汚れやすいのが普通ですが、オープンタイプエンコーダをモータに組み込めば影響を受けません。それに、RESOLUTE 自体も高い耐環境性能 (IP64) を備えています」
RESOLUTE は、業界標準の各種シリアルプロトコルに対応し、コンパクトで軽量なハイスペックエンコーダのひとつである。使用するスケールには、バーコードのように 15µm の明るいラインと暗いラインで絶対コードが刻まれており、このスケールの画像をリードヘッドが瞬間的に読み取る。周期誤差は±40nm と低く、汚れに対しても高い耐性を備えている。位置安定性が向上するためスムーズな速度制御が可能になり、ひいては加工品の表面仕上げの質が向上する。
生産効率の向上
製品のライフサイクルが短くなり、製品の多様化が進み、競争が激化する現在、まさに「時は金なり」と言える様相を呈している。メーカー各社は顧客のニーズに応える品質の製品を追求しつつ、新製品投入までの時間の短縮を見据え、生産性の向上と効率化に取り組んでいる。Chen 氏は続ける。「ロータリテーブルの速度は、製品コストに大きく影響します。例えば日々の生産量が数万にのぼるような大規模な生産ラインの場合、少しの遅れだけでも多大なコスト増につながります。アブソリュートエンコーダは、インクリメンタルタイプとは違い、オンデマンドで位置情報を取得し、機械停止後に原点復帰しなくても再始動が可能です。そのため、工具交換やセットアップ後に、工作機械をシンプルにその場から始動しなおすことができます。全体的な生産時間を大幅に短縮できます」
プログラムのカスタマイズ
工業技術研究院は新技術の開発に注力しているが、業界をけん引する存在ならではの課題に直面している。「当院は長年にわたり、パナソニックさんと良好な関係を築いておりパナソニックさんの製品を使用してきた経験がありました。その理由から、開発するロータリテーブルにはパナソニックさんのサーボドライバを使用すると決めたのですが、対応するオープンタイプのアブソリュートエンコーダを見つけられませんでした。そこでレニショーさんにアプローチしたところ協力していただくことができ、パナソニックさんのシリアルプロトコルに対応した RESOLUTE を開発していただけました。そのおかげで、Panasonic Taiwan 社初となるダイレクトドライブロータリテーブルが実現したのです。レニショーさんとも長く良好な関係を続けていますが、レニショーさんは素晴らしいアフターサービスを提供してくれます。また、当社はレニショーさんには他にも SiGNUM™ インクリメンタルエンコーダや XL-80 レーザー干渉計でもお世話になっています」(Chen 氏)
レニショーの製品やノウハウは工作機械業界で高く評価されている。その製品レンジは、工具計測、折損工具検出、ワーク芯出し、サイクル内計測など、多岐にわたる。
工業技術研究院について
豊かな未来を目差し、応用研究と技術サービスに特化した、1973 年設立の非営利研究開発組織である。各業界の技術発展に注力しており、台湾の経済成長において非常に重要な役割を担っている。
著名な企業各社とパートナー関係を築いており、シリコンバレーや東京、北京、Eindhoven といった海外オフィスも展開している。同院の技術イノベーションは、Wall Street Journal の Technology Innovation Awards や R&D 100 Awards などに選出されている。