Marsi Bionics 製の「人生を変えるような」外骨格ロボット。RLS の磁気式エンコーダで実現
背景
Marsi Bionics 社は、スペインのマドリッドを拠点とする技術系のスタートアップ企業で、日常生活で車椅子の代替となる可能性を目指し、医療用途のカスタム外骨格ロボットを設計・製造している。
下半身麻痺、脳性麻痺、脊髄性筋萎縮症 (SMA) など衰弱性の神経生理疾患の患者は何百万人もおり、これらの疾患がもたらす移動の問題への対処には、杖や松葉杖、歩行器といった受動的な補助器具による神経学的リハビリテーションが欠かせない。最近ではロボット工学の進歩により、患者の身体を支える電動式 (能動型) のロボット外骨格を用いた治療が可能となり、著しい進歩を見せている。
Marsi Bionics 社が開発した外骨格ロボットは、立ち上がり、移動し、自身の環境と関わり合う自由を身体障害者に与える。
RLS (レニショーの関連企業) の磁気式エンコーダは、Marsi Bionics 社の新製品、子供用の外骨格ロボット ATLAS 2030 と大人向けの単関節外骨格ロボット MB-Active Knee (MAK) に採用されている。
座った状態で ATLAS 2030 を装着した子供
位置の基準を確立するうえで基礎となるのが、エンコーダから収集したデータです。RLS さんとレニショーさんは、我々に最適なエンコーダシステムを供給してくれました。
Marsi Bionics 社 (スペイン)
課題
ATLAS 2030 は、手足がそれぞれ最大 6 自由度を有しており、着用者は歩行や着座など、補助なし動作と自律動作の両方を行うことができるようになる。外骨格ロボットは、モータ駆動関節、手足、そして電子制御および電源システムで構成される。
身体的なハンディキャップを抱える装着者が容易に扱える軽量でコンパクトな構造と、生理学的に完全な生体力学的モデルを実装するロボットシステムとの間で妥協点が見出される必要がある。
外骨格ロボットと装着者が一体となって安定して歩行するための平衡制御は、望ましい正規化動的安定マージン (NDSM) に基づくゼロモーメント点 (ZMP) 基準をトラッキングすることにより達成される。その後、外骨格ロボットのコントローラが、メモリに記憶された基準歩行パターンを適応させて安定性を保つ。
動的歩行を実現するには、位置、速度、加速度に関するロータリエンコーダのフィードバックを利用して、脚関節の角度を的確に制御する必要があるが、どの機械関節部にも柔軟性があり、ユーザー自身の関節と筋肉を模倣および支持する弾性要素が含まれることから、実現は簡単ではない。
Marsi Bionics 社で MAK プロジェクトの研究開発エンジニア兼マネージャを務める Alberto Plaza 氏は、人間の外骨格に求められる厳しいエンコーダ要件について次のように説明している。
「外骨格を開発するに当たっての最大の難題は、正確な角度位置基準を取得する信頼度です。なぜなら、その基準は構造ごとに変わり、装置の標準化と組立てを複雑にするからです。
以前は、MAK と ATLAS の力学構造と完全にリンクした当社オリジナルの PCB エンコーダを使用していました。しかし、関節モータから生じる浮遊磁場がエンコーダに干渉して読取り不良が生じ得るため、定期的に問題が発生していました。
ATLAS と MAK を設計するにあたっては、スペースに大きな制約があるため、エンコーダなど関節を構成する部品は、性能を犠牲にすることなくできるだけコンパクトにすべきと判断しました。考慮すべきもう 1 点は機能性です。電力障害が発生しても各軸の角度位置が消失しないよう、ロータリアブソリュートエンコーダが必要です」
解決策
Marsi Bionics 社の子供用外骨格ロボット ATLAS 2030
Marsi Bionics 社は、外骨格ロボット ATLAS には RLS の Orbis エンコーダを、膝関節外骨格ロボット MAK には RLS の RM08 エンコーダを採用した。Orbis は、省スペース性に優れたコンポーネントタイプのロータリアブソリュートエンコーダである。スルーホール設計のため、関節モータシャフトに直接取り付けることができる。RM08 は小型の高速磁気式ロータリエンコーダである。直径は 8mm で、IP68 規格に準拠しており、過酷な環境で使用できる。
どちらも、軽量さとコンパクトさによって慣性が抑えられており、非接触・摩擦ゼロ設計によって機械的摩耗がなくなっているのが特徴である、また、高い角度分解能と精度によって優れたサーボ性能を確保できる。
「我々の性能レベルを満たすことができる、軽量で小型のエンコーダを探していました。大型で重量が過度に増してしまっては、歩行に支障がでるかもしれませんから」(Plaza 氏)
結果
RLS の磁気エンコーダにより、Marsi Bionics 社は、SMA、多発性硬化症、脳卒中による片麻痺などの疾患に苦しむ人々の QOL を高められる外骨格整形外科装置を設計・製造できるようになった。能動型の外骨格ロボットは、自力で動き回ることのできない 6 歳以上の子供の生活に特に大きな変化をもたらすことであろう。
最後に Plaza 氏は、「装置の各関節の安定した動きと正確な位置を得ることが最も重要です。エンコーダから収集されたデータは、位置基準の確立に欠かせません。RLS さんとレニショーさんは、我々に最適なエンコーダシステムを供給してくれました」
Marsi Bionics 社について
Marsi Bionics 社は、医療用ロボットを専門としており、本社をスペインのマドリッドに構えている。スペイン国立研究評議会 (CSIC) のスピンオフ企業として 2013 年に設立された。
人間の神経筋骨格系の構造面と機能面を模倣できる電動式外骨格ロボットの設計および開発を通じて歩行療法を実施することをミッションとして掲げている。
小規模ながら、医療分野における革新的な治療法の開発で社会的影響力の大きい企業と評価されている。同社は、製造パートナーである Escribano Mechanical and Engineering 社と協力して、バルセロナの Hospital Sant Joan de Déu で実施した ATLAS 2020 の臨床試験に参加し、同院は、スペインの病院として初めて、SMA (脊髄性筋萎縮症) を患う小児のリハビリテーション療法にこの技術を組み入れた。
Marsi Bionics 社の大人向けの単関節外骨格ロボット MB-Active Knee (MAK)